吉右衛門の道
1998年 10月 3日国立劇場 10日、16日、17日
「佐倉義民伝」-東山桜荘子-七幕十場
作 ・三世瀬川如皐 補綴・戸部銀作 監修・中村又五郎
あらすじ
下総国佐倉では、長年の飢饉により百姓の生活は困窮。堀田家の苛政により重税が課せ られ村は荒廃の一途。当地の名主佐倉宗吾は、義父も既に投獄の身ながら村人の意志 を汲んで藩主堀田上野介に嘆願する。が、受け入れられない。 捨て身で将軍家へ直訴しかないと決意した宗吾は、妻子に別れを告げに帰郷。追われ る身となった宗吾だが渡し守甚兵衛が旧恩に報いて、掟を破り船を出してくれる。 愛する妻子との束の間の団欒。しかしこの間にも餓死する者たちがいる。今生の別れ が雪の中で繰り広げられる。 宗吾の直訴は東叡山寛永寺で決行された。老中松平伊豆守の慈悲により、何とか願書は 届いたが捕らえられる宗吾。 宗吾の叔父にあたる仏光寺の名僧光然は、宗吾一家の命乞いの祈念していたが、それ も虚しく、宗吾一家は乳飲み子までもが死罪。怒りと無念さに堕ちた光然は戒を破って、 堀田上野介を呪うべく魔界の鬼のごとく変じていった。 堀田上野介は宗吾一家の刑死以来、彼らの亡霊の怪に悩まされ病の床に。 印旛沼に入水した光然の霊にまで取り憑かれ、上野介は狂乱する。 宗吾の死より百年。宗吾が眠る東勝寺では、盛大にその霊を弔う例大祭が執り行われ ている。藩主の代も替わり、今日は宗吾の末裔(利右衛門)までも現れて、新たに宗吾 霊堂が建てられることになった。
七幕十場という長丁場。実は観る前は不安でした。芝居が地味であること。(初見だけど先入観) 通し狂言というものを観るのが2度目であり、愛しい吉さまの舞台でも飽きてしまうのでは?という 懸念が正直ありました。 が、しかあし!この芝居飽きさせません。正味3時間ちょっとを吉さま出ずっぱりの大活躍。 それだけでなく他の役者さんたちとのチームワークも最高!物語がわかりやすく、確かに主題は 地味で暗いのですが(今回補綴で一応ハッピーエンドにはなっていますが)最後までグイグイ引っ 張っていかれます。 渡し守甚兵衛(又五郎)とのやりとり、この役おいしいです。全体に出番は少なくても他の役者 さんに各々、見せ場があり、印象に残ります。宗吾内での子別れは号泣まではいきませんが涙を誘 います。 子役との絡みに異常に惹かれてしまった私(*^^*)やはり相当なファザコン病のようです。女房おさん (松江)との絡みより子役との絡み、特に徳松!(歌昇さんの息子暁久ちゃん)になりたかった。 雪の中の子別れ。「やられた」と思いながらも涙涙の一幕です。 東叡山寛永寺での直訴の場では将軍家綱(梅玉)が立派です。あと松平伊豆守(宗十郎)はおい しい役です。しかし、将軍の気品はあるけど、何か言葉をかけるとか出来ないのだろうか?ただ 目前で起きていることを見ているだけ。将軍っていうのはそういうものだったんですね。きっと。 光然和尚の拵えを見て「あ、自頭みたい・・(^^;」と瞬時に感じてしまった私。でも流石に半分 正気を失っていく目の色にはゾクゾクしました。 そして!出番がめちゃめちゃ少ないにも関わらず一部の吉さま贔屓を骨抜きにしている(ほんとか?) 藩主堀田上野介・・・白の寝間着に片方の肩に黒の着物をかけ、脇息にもたれたその姿・・白塗りの 顔に上瞼は青みを帯びて病鉢巻・・・かっこよすぎる!白塗りのお役に飢えていたせいなのか? 吉さまの凄まじく悪くて色っぽい色悪のお役を是非観たい!と思わせる堀田の殿さまでした。 大詰めの宗吾百年祭の場は、あまりに救いがない結末なので補綴でつけられた場面のようです。 確かにそれはそうなんでしょうが、もうちょっと堀田の殿さま場面を膨らませてドロドロで終わらせて も面白かったかなぁ・・なんて。もちろん末孫利右衛門の吉さまは『吃又』の又平のように善良そう で、女房役も松江さんで、宗吾とおさん夫婦が百年の後、幸せに成仏したという感じがして気分は すっきりしますが、ぜひぜひ堀田の殿さまの場面で終わるドロドロ版も観てみたいと思いました。 でも、吉さまが初代の当たり役の継承ということで演りたがっていたこの演目。今回のように通し で上演されることはしばらくはないでしょう。 余談ながら初代から実父白鸚さん勘三郎さんも宗吾を演じておられますが、白鸚さんの舞台を 直接拝見したことはもちろんない私ですが、ビデオや写真で見知っているそのお姿に吉さまとっても 似ておられた。親子ですから当然といえば当然ですが、いい意味で不思議な感慨を抱きました。 贔屓のえこ贔屓ではなく、一見の価値あります。皆さま劇場へおはこびください。
ハッ、高津新田上岩橋村木内宗吾罷りおります ♪寝ても醒めても表紙へ♪