哀しみに似た優しさの中で〜松王丸〜
4月13日、24日 歌舞伎座:夜の部 去年観たときもちょっと苦手だった「寺子屋」にっちもさっちもあまりにやるせない 話で、幕切れも暗いし、見終わったあとに爽快感は感じられない。いや、歌舞伎で悲劇 や理不尽なものを排除したらはじまらないのだが、どーにもこーにも生理的に苦痛であ る。と言って観ていて退屈なわけではないのだが・・・やっぱり子供を犠牲にする物語 は切ない。理不尽で。その殺される子供が「にっこりと笑って・・・」なんて言われた 日には、オネーサン悲しさよりも怒っちゃいます(^^;
さて、16年ぶり(前回はS58の1月)の吉さま=松王とのこと。源蔵より拵えは うんと派手だし、楽しみにしておりました。実は私、源蔵さんもあまり得意ではなくて 冗談めかして某HPに「私の恋も冷めたか」などと書きこみした覚えが・・あれからは や1年3カ月。重ーいこってりな時代の丸本歌舞伎。義太夫狂言ってんですか?重すぎ て疲れます。ただ、私は基本的には世話物よりきっと義太夫狂言のが好きな気質と思わ れるのでこれから先ずーっと観続けていくと立派なデンデン丸本義太夫狂言好きなばば になることが予想されます。 で、源蔵と松王とどっちが好きかってーと、やっぱ松王ですね。初見のときは動きも 台詞も初めて聞くようで、それを追うのに精一杯。逆に富十郎さんの=源蔵の動きや台 詞、いどころが「うんうん、そうそう。あーでも、同じ動きでも富十郎さんだと腕の位 置がこの辺かぁ」などと変な感心をしてしまいました。これも去年の吉さま=源蔵を、 じーっくり観ていたおかげ。松王に関しては、下手の後ろの方の駕篭から出てくる・・ くらいしか覚えてなかったので、まずは拵えをとっくりと拝見。いい衣装ですよねぇ。 ほんと歌舞伎の衣装には驚かされます。雪持ちの松の衣装。五十日鬘っていう伸びるに まかせたという髪型に、病鉢巻。錆朱の鞘の刀。大きい。立派。巨大玉露茶茶筒って感 じです。そしてまだ、心底陶酔はできない芝居なのですが、やはり台詞に酔わされる松 王でした。 と、このくらいが薄れゆく記憶を辿りつつ思い出した、一度目観劇の感想。 そして・・・今日観てきた松王さまには・・・ 泣かされましたっ! しかもそれが「可哀想可哀想」の単純な涙でなく、心の中で、どーにもならないもの 一個人では抗えない人間の運命というか業というか・・・んー、うまく言えない。。こ の松王は前半の敵役のときも優しいんですよ。源蔵夫婦に、生き顔と死に貌は違うか らといってごまかすなよと言うときも、寺子たちを首実験してるときも、文机の数が一 脚多いというときも、戸波に「無礼者めぇっ!」と一喝するときも。別に微笑んだり、 遠慮しているように見えるわけではないのに、心の中に哀しみと諦念を超えてしまった 覚悟が感じられて、あれだけ恰幅もよく、口跡もいい男らしく見える、松王の中に堅固 ではあるけれども、透明な硝子のような心が見えてしまう。だから、あとで戻りになっ て、実は本物の菅秀才さまを守るために小太郎を身替りに・・・って善の方の顔になる ときまでの流れが自然。これっていいの?悪いの?かといって、敵でいる間も立派なん だけどなぁ。私はこの松王のが好きですけど、「無礼者めぇっ!」の一言でも仁左さん のが鋭い、癇性な感じがした記憶があります。敵役らしいね。 どーも昼の部の与右衛門さまにも通じる気がするのですが、ただ単純に悪、ただやみ くもに善という演じ方が体から発してないように思われてしまいました。私ってばおこ がましい。。(^^;しかも自分で書いていてわけわからなくなってきた。
ただ、この感じ、弁慶を観たときにも感じたことで、飛び六方で引っ込んだあとも一 行の行く末に想いを馳せてしまうような・・・酒を飲むところでも、一瞬の安堵の中で ほおっとして富樫にも感謝している場面などでも、ただ単純に喜んでいるわけではない という風に見えてしまって。。本来人間はそうそう単純でないから、白は白、黒は黒と いうより灰色の、それこそ鬼平の台詞のように「人間というものはいいことをしながら、 悪いことをし、悪いことをしながら、いいことをする生き物だぁ」になるけど、やっぱ 歌舞伎って、色悪なら色悪、荒事なら荒事のイメージってあるじゃないですか?そりゃ 自分が好きなら何でもよし!だけど、たまには悪なら悪!の吉さまも観たい。。なんて 思ったりもするぜーたくな私なのでした。でもね、その優しさも屈折したもので、たぶ ん私が一目惚れしたのはその人間の不思議さ、人間に潜んでいる複雑な、普通に生活し ている普通の人々にも潜んでいる人間の中にある説明のつかない感情かもしれない。 なんて、思えたりもします。で、結局は・・・ 2m松王さま万歳! なのでした。最高!とは言えないけど。あとね、誰が何と言おうとも作り病の空咳は上 手い!私は好き。「源蔵どのっ!ごめんくだされ!」で泣くところも。あの懐紙が欲し い〜。 ふうぅ。心身ともに疲れました。義太夫好きデンデンばばになる日よ、いつ?(^^;
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