《番外ズ》
●武蔵坊弁慶『勧進帳』: 芸についての正当な評価は見巧者に譲ります。立役のファンにとって弁慶は特別な役。もちろん素晴らし いと思うしもちろん大好き。できるものなら毎日でも観たい。「日本一だね」なんて聞くとわがことのよ うに?嬉しい。あの弁慶は丈でなければできません。あんなカッコいい弁慶も丈の他にはありません (と私は200%そう思っている。が弁慶を演る立役のファンは大抵そう思っているかも知れない。それ はこの際措いといて)。 でもそれは、弁慶は播磨屋でなきゃor(この上なく生意気で甚だ畏れ多いのですが)播磨屋は真の弁慶役者 だと思う、というのとはまた別のこと。この役について私が持っている全く主観的なイメージのせいなの ですが、吉右衛門丈は弁慶には美しすぎる気がするのです。上背はあるしガッチリしてるけど、顔も姿も 弁慶にしては端正すぎる。だいたい弁慶があんな美男だったら義経の立場はどうなる。それにあのモッコリ した山伏姿は顔の小ささを目立たせる。成田屋や天王寺屋と較べると一回り小さい(言ってしまった)。 だから見方によってはちょっと現代的な感じがしないでもない。はっきり言う。それでも好きだ(←くどい) ●俳諧師白蓮『十六夜清心』: 突然脇役。しかも数分しか出ない。役も丈にとっては楽々という感じ。しかしカッコよすぎた。あの、ボソ ボソ言ってるみたいな何気な〜い黙阿弥の台詞の素晴らしいこと!あのなんとも程よい色気と貫禄!そして その巧まれざる自然さ!「ぬしには確か、おかみさんが」「あってもいいワ、囲っておくわさ」・・決まった♪ あの異様に長い上着も巨大イカのような帽子も、なぜだか妙に似合ってた。幕切れだってただ清心と擦れ 違うために出て来て後は突っ立ってるだけなのに、もぉめったやたらと素敵だった。そう、十六夜になり たいなんて贅沢は言いません。あの傘になりたい、傘に・・。 吉右衛門丈の白蓮があんまり見事だったので、もう他の方のは観てもだめそうな気がしてしまう。これは たまたま脇役の例だけど、そういうものがどんどん増えて行くのでこわい。。 ●池田丹後将武『室町御所』: 当たり役という訳ではないし(1度しかなさっていない。最初で最後かも知れない)、ご本人がお好きか どうかも分からない(たぶん、特段お好きではなさそうな気もする^^;。ヤな奴なのだ。頑陋、驕慢、陰険、 自己中心的)。しかし、 1)ヤな奴なのだが人物像は非常に魅力があった。つまり吉右衛門丈が演じるキャラクターとしてと いう意味で、自分好みであった。おまけにとにかくカッコよかった。皮肉なくらいきつく冴えた 美貌。少なくとも丈のファンならあれをカッコいいと思わない人はいない(のではないかと思う)。 2)この役をあれほど鮮烈に且つ魅力的に演じ切れる人は現存の役者では他にはいない、この2つの理由で ランクイン。 個人的には大好き。できればまた観たいがめったに出ない芝居。人を人とも思わぬ烈しく強い男が武士と しての功名とたかが一人の女への恋に身を滅ぼして行く様は、壮絶でロマンティックで哀しい。人物や場面 の描き方も密で、主役以外の言動、生き方にも興味深い点が多かったと記憶する。 ただ正直言って(もしかしたら通好みなのかも知れないが)、長い。丹後は出ていないところだが、部分に よっては場が長く、丁寧だけどド退屈。主役が他の方だったら1回観ればもう十分。でも吉右衛門丈がな さるのなら、また何度でも観に行くでしょう。・・ああ、こんなことオンラインでずけずけ言える日が来る なんて(涙)。(←誰か言っていいって言ったのか??)
《その他好きな役ズあれこれ》 ・浮世又平『傾城反魂香』:台詞回しと口跡のよさを以て鳴る吉右衛門丈だが、 声を出さない芝居の充実度が端的に分かる役。見張りをしているその間、 全く瞬きをしないのには驚いた人も多いはず。絵姿を描く入魂ぶりには 圧倒されるし、念願叶って舞い謡う時の軽やかな笑顔は何とも言えずこ の方のもの。 ・『石切梶原』:美しい。気魄バッチリ。あの眼の強さにはドッキリする。 ・『法界坊』:楽しい。剽軽だけれどいかにも汚らしい感じがしないのも◎だ と思う。ただ不思議なことに、(色々な意味で)同じキレイでない役で も、次郎左衛門や駒形茂兵衛の時には感じないある種のスマートさみた いなものをこの役には感じる。(大へん僭越で恐縮なのだが)再演時の 女形の伸びに感動。 ・富樫『勧進帳』:演者の個性が顕著に出る役だと思うが、知情勇バランスよ く備えた感がある。明瞭で張りのある間取りよい台詞が快く、この役の 宿命、弁慶の受けに回っての出過ぎず抑えた演技の中にも、息を抜かな い緊張感が漲る。ところでついでに言うと、昨年の歌舞伎座顔見世は富 樫が菊五郎さんだったので、吉右衛門丈の弁慶も何かウェット入ってた? 気がする。音羽屋もいいけれど(余談。でも彼は判官の人かな)、でき れば播磨屋の弁慶相手には調子の高い人がよい。 ・『鳴神』:個人的にはそぉんなに好きなものでもないのだが、今いちよく分 からんと言うかダカラナンナンダ的なあの大らかなナンセンスさ?が、 きっと荒事のよさというやつなのだろう(ほんとか??)。デフォルメ された男の芝居、と言うか。やはり歌舞伎にはきっと外せない要素。 余談。この役、米国公演のドキュメントの時お稽古風景をちょっとだけ 映していた。全くわたくしの趣味として、実はああいうシーンが大好き。 下手すると本舞台より好きかも知れないくらい^^;。役者さんや関係者 の方々には当たり前の光景でも、我々一般の観客は日ごろ目にする機会 のないお姿。浴衣に素顔で、役の表情で役の声で喋ってる吉右衛門丈、 ・・理性なんかぶっ飛んじゃうほど物凄い色気を感じる(え、播磨屋観 てる時は元々ないだろ?・・はァ)。だから素踊りとかも大大好き。美 しい人ってほんとまんまでいい(果てしなく話が逸れる。鳴神に戻そう)。 絶間姫との杯事が、この優らしい可愛らしさで微笑ましい。六法の引っ 込みも迫力あり素晴らしい。あと、「その美しい咽笛に喰らひつき共に 奈落へ連れ行かんが・・なぁらぁぬぅかぁ〜」と迫るところがいい(も とい、羨ましい?) ・狐忠信『吉野山』/勘平『落人』:もちろん全く違う役だが今は1つの共通 項でここに挙げる。目を奪われるほど綺麗。特に前者の、あの燃え立つ ような緋の似合うことといったらない。”播磨屋は二枚目やっても砥粉” と思い込んでる人に見せてやりたい!!(後になったが踊りも素敵) ・畠山重保『頼朝の死』:脇役だけど大好き。「この重保こそ、深くそなたを 思ひ入る」・・(←そこの播磨屋いのちのあなた。自分が言われた気に なって下さい)
《観たい役ズ》 まだ手掛けていらっしゃらないものと、なさっているけれど
自分が拝見していないものとごちゃまぜなのですが。また、
観たい理由はほとんど書いてありません。なぜなら贔屓に理
由などないからです。ただただ観たいだけなんだも〜ん♪
・『髪結新三』:(ほぼ実現不可能と知りつつ・・)No.1。
・清玄『再桜遇清水』:僅差でNo.2。うぅーん色っぽそう。中座でも上演され
ているが、東京では生きない芝居なのだろうか。
・仁木弾正『伽羅先代萩』:僅差でNo.3。成田屋も、最近の大和屋もそれぞれ
によかった。これで播磨屋だったらどうなっちゃうんだろう。大きくて、
どこか超人的で、ゾクゾク来るような妖気ムンムンのを観たい。
・僧智籌実は土蜘蛛の精『土蜘』:どうして最近なさっていないのだろう?
・樋口次郎兼光『逆艪』:どうして最近なさっていないのだろう?PART2
・武智光秀『桔梗旗掲』:どうして最近なさっていないのだろう?PART3
・龍達/虎蝮の太十『巷談宵宮雨』:(後者は既演。前者はつらいかな^^;?)
・松王丸『寺子屋』:(でかそう・・)
・いがみの権太『鮨屋』:もちろん、太股が拝めるからなどという不埒な理由
(だけ)ではない。
・源為朝『椿説弓張月』:全体の傾向としてはやはり未見の古典に興を唆られ
るが、ちょっと趣きを変えてこういうものも。三島由紀夫作。観たこと
も読んだこと(曲亭馬琴の原作含む)もないのでどういう作品なのかよ
く知らない。為朝がどのように描かれているのかも実はほとんど知らな
い^^;。一般的な英雄イメージが強い造型ならば、ひょっとしたら丈は
ちょっと暗めかも。観てみないと分からない。で、恥ずかしげもなくこ
んな知りもしない、しかもどうも秀作というわけでもないらしい?のを
わざわざ持って来た理由はただ一つ。扮装(なり)で選んだ^^;;。お父
様の写真でとても素敵なのがあり、これが吉右衛門丈だったら絶対死ぬ
ほどカッコいいに違いないと思われたので。まぁなさることはなさそう
な気はするが、万一やられた日には果たして冷静に観られるか自信がな
い。
《観たい役・次点ズ》
・此下東吉『金閣寺』:どんなにか美しかろう。間違っていたら済みません。
もしかしたら20年近くなさっていないのでは? 忘れている人もいる
と思うが(?)、これ襲名披露で演ったものなのに(そりゃ『関の扉』
の宗貞もおんなじじゃ)。
・徳川綱豊卿『元禄忠臣蔵』
・寺岡平右衛門『忠臣蔵・七段目』:観てないんです。笑って下さい;_;。で
もたぶん由良さんの方が好きだと思うが(←そおゆう問題ぢゃない?)
・お坊吉三『三人吉三』:頽廃的。・・あゝなんて甘美な響き♪「そんならて
めえもここで俺と一緒に死ね」・・あゝなんて甘美な響きPART2。
・追分の伊三蔵『ひとり狼』:すね者のやくざだそうな。似合いすぎ。
・清心『十六夜清心』:台詞すごくよさそう。変心から引っ込みももちろん観
たい。
・民谷伊右衛門『四谷怪談』
・奴智恵内『菊畑』
・道玄/梅吉『加賀鳶』
・左枝大学之助/立場の太平次『絵本合法衢』
・景清『日向島』
・長兵衛『文七元結』
・徳川慶喜/山岡鉄太郎『将軍江戸を去る』
・政右衛門/十兵衛『伊賀越道中双六』
・関兵衛『関の扉』
・弁秀『吉様参』
・『魚屋宗五郎』:新三には負けるがこれも観てみたい。
・南郷力丸『白波五人男』:これ難しい役らしい。でも稲瀬川堤なんかきっと
理屈抜きに男っぽくってカッコいいと思う。
・源頼家『頼朝の死』:重保がとてもいいが頼家も蔭があって繊細でよさそう。
真山青果賞受賞時の直前所演がこの役。
・豊臣秀頼『沓手鳥孤城落月』:「いかなる恥辱も母上には代えられぬわえ」
の台詞を吉右衛門丈で聞きたい。
以上、頭痛・目まいその他諸症状に悩まされながらかようなものを最後までお
読み下さいました皆様、本当にありがとうございました。
では、結びに代えて。。
「惚れなきゃァだめだ。惚れなきゃ役者のほんとうの値打ちはわからねえ」
(平成10年8月31日)