もう一人の主役


 2000年 9月 2日 歌舞伎座昼の部

 何はともあれ、めちゃめちゃ綺麗でした。白塗りのお顔に燕手とやらの鬘に、衣装もいっぱいだし。 浅黄素襖大紋(義賢最後の義賢さんみたいな衣装ね。あと忠臣蔵の塩冶判官みたいの)に烏帽子→紫 紺の裃姿→鴬色羽織かけ→肩衣白装束。  特に紫紺の衣装がねぇ。歌舞伎衣装にはさまざまな色味のものがありますけども、このほとんど紺に、 ほんのちょっと紫の入ったような紫紺、なんともいえずいい色で、こーいう色って歌舞伎衣装では珍し いんぢゃないかしらん?私が初めて見ただけかな。鴬色の拵えのとき羽織もあるし、もこもこしてるなぁ 〜と思ったら、下に覚悟の白装束だったからね。
 さて、あらすじだけは仕入れてたけど、映像でもナマ舞台でも初の演目。まぁ、光秀が、春永に理 不尽な嫌がらせのよーないぢめを受けて、ぶち切れて謀反を決心するまでの話。ってのがわかってれ ばokでした。蘭丸のイメージって、腕はたつけど、白い色小姓を想像してたら、あーいう、赤い隅取 りの、やっとことっちゃうんとこなー系の顔と拵えだったのねぇ。それが一番意外だったかな。    結論を言うと、まだちょっとあったまってないかなぁ。と。24年ぶりでは初役も同然だし、春永 さんには、最後まで専用前乗りエコーが憑いてるし。小声で、そう間を外さない輪唱だったが、とこ ろどころならまだしも、ずーっと憑依してたから。。(^^;やっぱり、光秀との対話のやりとりに、 微妙に白い間ができて、ちょっと。。。と、去年4月の中村会での16年ぶりの松王は、すんごい期 待してたけど、それほどでもなかったので、“良さそうな役でもひっさしぶりの役”はひょっとして、 それほど良くはないのではないだろうか。。と、一抹の不安と先入観があったせいかな。
 あと、光秀は、武将としての腕も立ち、連歌、俳諧、茶の湯、華道とたしなむ風流人。インテリさ んだったみたいなのね。でも、それを言うなら、戦国武将って、↑の一連のことはすべて嗜んでいた し、それらが政治的サロンの道具にもなっていたわけで、信長だって秀吉だって、それぞれ、ひとと おりは嗜んでる。腕前がどうかはわかんないけど、天下をとるくらいの人物ならば、そうそう下手で はないと思うんだな。信長も秀吉も茶の湯にはかなり入れ込んでたみたいだし。ま、自分の権力の誇 示と政治的策謀に利用する方が多かったんだろうけど。なんで信長(役名では春永だけど)あそこま で、光秀をいぢめるのだろう?やっぱ、相性としか言いようないかなぁ。富十郎さん春永は、プロン プが憑いていたとはいえ、いつもどーり、シャキシャキときっぱりいい口跡で、貫禄もあるのだが、 もちょっと、憎さげな感じ、エッセンスでいいから怪物的な嫌らしさがあればいいなぁ。人が良さそ うなんだよね。サラサラとして、もちっと粘着質な感じがあればいいなぁ。なんか、教え子に教訓を 与える校長先生みたいなんだよね。立派だけど。あ、あと信長(春永)のエキセントリックなとこが もちっと欲しかったかも。素直な感想です。はい。
 で、舞台では台詞の中にしか登場しない久吉。登場しないけれども、“彼”の存在感がそこここに ある。という、不思議な体験をしました。 気に入ってるけど能力ない部下、気にいらんけど能力はある部下。なら扱いようもあるけど、能力は 五分な二人なんだよね。気に入らなくて、能力なしなら、遠ざけちゃえばいいんだから。 で、また、光秀っていうのは「窮屈な人」だったんぢゃないのかなぁ。悪いことしてなくても、理由 なく何となく他人からは敬遠されがちな。人並以上の能力はある。性格も悪くない。几帳面、理路整 然、情けもあるし、頭もいい。間違ったことはしないし、言わない。でも、なんとなく、一緒にいる と窮屈な感じ。。これは自覚あるなしに関わらず、仮面いい人に多い。説明できないけど、なんとな く一緒にいて、気詰まりな人間っているよね。融通がきかなくて不器用、よく言えば生真面目で生一 本。戦国武将には致命的だよね。例えば、饗応の場の幕が「なんで、俺のぢゃなくて、自分ちの桔梗 紋使ってるんぢゃー」っていちゃもんつけられたとしても久吉なら、「公家ごときを饗応するのに、 上さまの紋をつけるなどおそれ多くもったいないことでございます」くらいはぽんぽん言うだろうし。 まぁ、嫌いなやつに同じこと言われたら、それはそれで新たないちゃもんつけるだろうけど。 怒る方が理不尽なんだけど、逃げ場を残してあげないと、相手は自分より立場上なんだしさ、正論で 「いや、それは心外。これこれこうで」なんてやられても、謝るわけにいかないんだから。
 で、吉さま光秀さんがいまひとつあったまってないように感じたのは、この融通きかない不器用生 真面目生一本ひっくるめて、実は頭いいかもしんないけど単純。っていうのが、ひょっとして、ぴっ たしはまってないのかなぁ。なんて。色々迷ったり考えたり、苦悩したりはするけど、腹に一本覚悟 がある、本流にはあえて乗らない人物のが合うよねぇ。つまり、複雑な人物像のがぴったりだと思う の。大蔵卿や熊谷みたく。屈折しまくるところはよいのだけども、も少し。これからが楽しみかな。 でも、やっぱ、綺麗だったわ〜。べらぼうに綺麗だったわ。後半部分は、目の上真っ青シャドーで、 堀田の殿さまを彷彿とさせるし。あの顔に眉間の傷。ああ、美しい。。。 というわけで、9月最初の感想文終わり。(何?また書く気かいな?はーい♪)
 2000年 9月 2日 夜

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