光秀と春永
2000年 9月 2日 13日 16日 歌舞伎座昼の部
13日に観たときの花道の光秀さんがすごかった。中日だったんすよ。芝居があったまってきたとい うこともありましょう。私の受け入れ体調諸々がよかったのかもしれない。2日に観たときは初めて観 るものだから、筋とはこびを追うので精一杯だったせいもあり、今ひとつだったの。期待が大きかった だけに。まず、光秀さんが融通きかずの苛められるがわのしょーもなさが稀薄な気がしたし、苛めるが わの春永さんも、短気で怒ってるうちに自分の言葉に激していくような無茶なエキセントリックさが稀 薄であった。が、13日に観たときには、融通きかなさがそこはかとなく身になってました。光秀。 春永さんも色気はちょっぴり物足りないものの、怒ってるうちに自分を抑えられなくなる激しさが、か なりいい感じになってました。ほいで、16日に観たときは、ますます春永が良くなってるように感じ ましたわん。もちろん、それに比例して光秀も良くなってるというより、際立っておりました。
光秀さんへの苛め:饗応幕に小田家の紋でなく、武智家の桔梗紋を使っている。→おのれは春永の名代な だけ、饗応主人はこのおれだー!それになんだー!こんな華美贅沢なもん使ってー!→光秀:んなこと 言っても華美にせー!って言ったじゃーん→春永ぷっつーん1→蘭丸に鉄扇でぶて!と命じる→光秀平 謝りでもすればいいのに昔、別の家来(?)にも理不尽な仕打ちをした。私はお諌めいたしましたのに。 と逆に説教→春永ぷっつーん2。男の生き面の額を鉄扇で蘭丸に打たれる。 光秀妹桔梗やら蘭丸他諸士の勧めにより、とりあえず光秀をよんで目通りすることは承諾。ほいで、久 吉が贈った花と光秀が贈った花に関してひとくさり。やっぱ、光秀が気に入らないらしい。恭順の意を 示し、体を折るようにやってくる光秀。ここからがすごい。本舞台の春永、「ん?目通り叶って嬉しい か?犬でも3日餌を与えてそばに置けばしなだれてくるもの。ましてや人間。侍なんかでなく、犬だっ たらおまえも振るだろ?振りたかったろ?尾っぽ。」光秀これに、「犬であろうが牛馬であろうが、戦 に出してくださるなら。。」で、「盃とらすから近くへ来い」「ははっ」ここですっと春永そばに行く かと思いきや、お行儀悪いと思ったのか、あまりに媚びてるように見えると思ったのか、一瞬行きかけ て座り直し平伏。ほれぼれするよな声で、春永「みつひでー!ちこー!」光秀「ははーっ!」ぱんぱん と袴の膝を叩いてそばへ。いや、ここが、すんばらしかった。苛めというよりは嬲る嬲る春ちゃん。ス トレートに甘えちゃえばいいのに、尾っぽ振りたさもあり、中途半端なプライドもあり、あと、なんて いうか、主君と臣下というより、恋人同士の駆け引きみたいな危うさも。「そりゃ、あなたのことは好 きよ。でもねぇ、さんざ苛められたあとでそんなうはうは喜べないわ。あたしってそんな安っぽい女じゃ ないの」みたいな。ただの横暴と屈辱への屈服ではなく、憎悪と反抗心だけでなく、そこにそこはかと ないあやしげな愛が仄かに感じられて、私、目からウロコだったのでした。だってさー、あぁた、「犬 だったら尾っぽ振るだろ?尾っぽ振りたいだろ?」ってねぇ。SMちっく愛も仄かに。。
目通りはしたものの、とらせる盃は久吉が献上の錦木をいけてた花器の馬盥だわ、(花器として作ら れた馬盥で、もちろん実際馬を洗うために使ってるもんではないけどね)轡を投げて(これも銀の智恵 の輪の巨大化したやつみたく綺麗なやつだけど)『光秀に轡をはませ、真柴が陣へ急いでひけー!』 蘭丸へは褒美だといって、かつては蘭丸の父の領地だったけれども、今は光秀の領地であるものを蘭丸 からねだられ、「どー思うよ?」と。ほいで、またよせばいいのに、「拝領してる土地は国家のもので あって、個人のものではないっすよ」みたいなことを言う(だよね?)光秀。前々から光秀が望んでい た名刀日吉丸は長尾弥太郎へ。ほいで、とどめに光秀が貧しい浪人時代にお客をもてなす費えもなく、 妻皐月が黒髪を切ってその費用をあがなった。が、なーんと、その髪を買いあげたのは春永の間者。ん で、満座の中で貧しい時代の恥部を暴かれる光秀。「この切り髪は越路にて光秀流浪のそのみぎり、煙 も細き朝夕のその世渡りにわずかなる価にかえてーーーっ!・・・・・ありがたく、ちょうだいつかま つってござります!」春永、「なー、わかったぁ?そんな境遇に同情して引き立ててやったのに、恩を 忘れて慢心して、いらざぬ諌言なぞしおって〜。ちっとは反省せーよ。もっともっと言いたいことある けどさー、なんかうっとーしくなってきちゃった。よっく考えてみればぁ?ブルーじゃん。飲み直そう」 と退場。 残された光秀と妹桔梗。三宝に乗った箱の中に切り髪。傍らに轡。。轡を片手にぷるぷると震える手。 はっと抑えて袂へしまう。桔梗が心配げにそばに。表情だけで心配するな。。と。先に下がっておれ。。 と力無く微笑。この微笑が、、、 美しいー!こんな表情だけで、語らせちゃったら、日本一だわ。と感動ほとばしりましたわ。 で、花道引っ込み。屈辱の怒りに燃える光秀、、、・・・・・ぐぐぐーーーっ!ぽんっ!と切り髪の入っ た箱を叩き、謀反の決意を胸に引っ込み。静かな熱い炎が背後に見えました。 あ、あと馬盥で酒を飲む仕草が、また綺麗でしたわ〜。酒気を払う息を吹き、ぐぐーっと飲みほし、 懐紙のあつかいもいつものようにわんだほ〜。
宿所で、妻皐月と連歌師丈巴が連歌を作っている。丈巴「ちょっとー、奥方さま聞いたぁ?本能寺で 殿さまが昔のことですんごい辱め受けたって!んもー悔しい!こーなったら謀反よね!」(なぜ女言葉?) 妻皐月「めっそうな!大それたこと言わないでちょーだい!」で、桔梗に事情説明を受ける。「あらま! じゃ、貧しい時代に髪を売った。。そんなことが今になって、殿さまの恥辱に・・」春永から遣わされた 上使2人がやってくる。切腹せー。とはっきりは言わないけど、どーせろくな事は言ってこないに違いな い。それ聞く前に着物を召し替えますわ。と、愛宕おろしの風で吹き消される明かり。暗闇の中で、召し 替えて、妹桔梗に三宝に乗せた腹切り刀を持ってこさせる。妻皐月には明かりもてと。あれま!召し替え たその姿は水裃の白装束。上使の2人、「さすがは武智光秀、いい覚悟っすねぇ。んでもま、一応聞いて」 と春永の命令状(っていうの?)を読み上げる。なんかとんでもない僻地への領地がえとか、とても承諾 できないようないいがかりのよな内容。光秀「是非その日吉丸で介錯願う。その前に日吉丸を是非拝見し たく、、」刀に息がかからぬよう、袂で口元をおおい、じっくり刀に見入る光秀。ああ、悪の魅力。もー 妖しい。。辞世の句「時は今 天が下知る皐月かな」読み上げる上使の一方。あやしー感じに腹わたから こみ上げるようにそらんずる光秀。 「と〜〜〜き〜〜〜はぁ〜〜〜今〜〜〜!天が〜〜〜下〜〜〜知るぅ〜〜〜皐月かなーーーーーっ!」 と、鳴り響く陣太鼓。日吉丸で上使2人を一刀に斬り捨てる。花道をだだっとやってくる四王天但馬の守。 でかいでかい人間離れした悪の美しさ爆発の光秀。いざ本能寺の春永の首を討ちに。三宝踏み壊して、最 後幕切れの高笑いとも言えない不気味に抑えた不思議な笑い。。日吉丸をかまえ、恐ろしく笑いながら幕。
悪の魅力。ここんとこ、いい人化が進んでいると私には感じられた吉さまの、 悪の魅力! 堪能しました。。。
ところで、素朴な疑問。春永って、光秀をどーしたかったん?と、この疑問をふまえつつ、あと一回 の逢瀬(?)楽しみにしてまっす。
2000年 9月18日 夜
台詞部分一部超訳(?)御免! 寝ても醒めても表紙へ