幸福な王子
久々のトークショーでございました。紀尾井小ホール。邦楽専門ホールでキャパ250。新し いホールなのか、綺麗で、こじんまりと音響も良好。 しかし、あんな衝撃的な事件(?)が起きようとは。。いい男で、いい人間なのだなぁと。
低めの床几(でいいのかな?鬼平に出てくる茶店先のベンチみたいなやつ。んで、その毛氈が 濃い青でございました。)が2つ置かれた舞台上。下手にちと幅広の、上手にちと幅狭いのが。 インタビュアー兼進行の女性が和服で現れ、簡単な挨拶がすむと吉さま登場。濃い灰色のちと茶 が入ってるような、羽織に着物、それよりかなり薄目の灰色の袴で、邦楽専門ホールの舞台上に はぴったり。登場とともに客席から「播磨屋!」の大向こう(?)がかかり、和やかなムードで トークは始まりました。 まず、二月公演の役役の話から、インタビュアー=イで書いていきます。
イ: 三人吉三は良く知られた演目ですけれども? 吉さま:そうですねぇ、お客さまの方がよくご存知だったりしますから、緊張しますね。知られ てるものだけに・・緊張して台詞を間違えまいとして間違えたり。 イ: 間違えたらどうなさるんですか? 吉さま:僕は正直なもんですから、ごまかせないんですねぇ。知らんふりでそのまま続けてしま えばわからないものを、言い直して言ってしまったり、「あ、吉右衛門、間違えた」と はっきりわかってしまいます。正直もんはなんとやらで・・(笑) イ: 同世代の役者さん三人の共演ですが? 吉さま:そうですねぇ。同じように育ってきた、同世代の三人なのでね、気心はわかってるし、 楽でしたよ。楽しく1ヶ月すごさせていただきました。 イ: 夜の部では熊谷をなさって、初代の当たり役でもあり、大切にしたい役がらとお聞きしまし たが 吉さま:んー、暗いけれども、変わらない親心といいますか、あとその時代の美しさに対する美 意識、毎回、ある種の感動を持って演じておりますね。それをどう伝えるか考えながら、 今後も頑張って演じていきたいものの一つです。はい。 イ: 我が子を身替りにして、最後は一人でさっさと出家して去っていってしまうという良く考え たら、とんでもない・・・どういう心境だったのでしょう? 吉さま:・・無常を悟ったのかなぁ・・と。なかなかね、実際には欲が多いので、無常は表現で きませんがね。九代目團十郎さんの写真などを見ると、大きいお目目で迫力があって、 ですけど、その目が無常になっているんですね。それをどうしたらよいかと・・・ イ: なぜ我が子を犠牲に? 吉さま:その時代の忠義といいますか、あと高貴な者を救うために我が子を犠牲に。。というのは当 たり前のことだったんですね。だからそれに関しては悲壮感は感じません。 こないだ亡くなられた、バワーズさん、アメリカの軍人さんで戦後の日本の歌舞伎を救っ てくださった方ですが・・首切り、腹切りだけでない、悲劇、悲壮がある。反戦の思想 がある。と。自分もそう思ってやっております。バワーズさんのおかげでできるようになっ た芝居なんですね。 イ: 相模と藤の方と両方に挟まれて、両方を騙さなければいけないという・・ 吉さま:・・ああいう立場とは違いますけれども、正妻と愛人の間に立って、「まぁまぁ」なん てなだめなきゃならない。(笑)男性なんてそういうところあるでしょ。二人の女性の間で オロオロと。 文楽では有髪で出家して、「髪を切りました」という形で、九代目さんから頭を丸めて、 一人寂しく去っていく。と、悲劇を強調するにはその方がいい。と考えたんでしょうね。 だって、女房と一緒に仲良く去っていくよりはねぇ・・・熊谷は最後に泣きたかったんだ ろう。と思いますよ。相模にも藤の方にも、義経にも涙は見せられない。それが最後、や りきれない気持ちで、堰を切ったように涙する。お客さまが、泣いて下さればありがたい。 笑ってくださる方もありますのでね。(笑) イ: 熊谷は泣いて、出家して去っていきますが、残された相模は・・子供は死に、夫には去られて・・ どうお考えになりますか? 吉さま:・・後に残された女房は、どうすりゃいいんだ?と。(笑)それを言われると辛い、よく考えたら とんでもない話で。・・すべて人生、夢、お芝居というような気持ちじゃないですかねぇ。 歌舞伎には考えたらとんでもない話が多いんですよ。三人吉三だって、人殺しから男色から、 兄妹だし。メチャメチャで・・それで手を叩いていただいて・・ イ: でも、悪人ですけれども魅力がありますよね。 吉さま:悪人ですけども、魅力あるようにやらないと・・んー、お坊はむつかしいんですね。和尚も お嬢も通ってるでしょ。最後まで通っている。お坊は最初、意気がって、威張ってるけども 最後は「これまで尽くせし悪事の言い訳、我と我が手に、身の成敗」なんて言って女々しく なっている。 イ: 熊谷と一緒で、悟ったのでは? 吉さま:・・悟るにしては意気がってる。・・25歳らしいんですね。25と19、お坊が25で、 お嬢が19、らしいんです。・・悟らないでしょうねぇ。 イ: 帯屋では、初役で長右衛門をなさってますが、どうなんでしょう?初役というのは。 吉さま:・・これはね、家内がいるんでね、言いにくいですけれども。(笑) 心情はわからないではないですね。そりゃねぇ、色っぽい女の子で、体も成熟し始めて、初 々しい女の子が夜中にきて、一緒に寝て。って言われりゃあねぇ。長右衛門は、裕福でのんべ んだらりと楽に生きてる人ではないんですね。育ての父には義理もあり、継母には苛められて る男で、ストレスたまってたんじゃないですかね。そこへフッとくれば魔がさしますよ。 大変な女房ですね。お絹さんは・・良く出来ていて、亭主が女遊びしても「いいのよ、いいの よ。男の甲斐性、どんどんおやんなさい」なんて許してる。 イ: コワイ感じがしますね。 吉さま:・・・・・見た目がですか? イ: い、いえ、性質が!耐えて、耐えて、爆発したりしないのかと。 吉さま:嗚呼、良かった。とんでもないこと言われなくて(笑)爆発はしないでしょ。その時代の女性 には当たり前で。台所で茶碗割るとか、陰で・・(五寸釘を打つふり)とか。 前に因果話がありましてね、今はみどりと言って、お客さまも慣れていらっしゃるでしょうけ れども。長右衛門て遊び人なんですね。昔、芸者と心中して、女性だけ死なせてしまい、心中 の生き残り。というような。で、お半がその女性の生まれ変わりだと。 ものすごく綺麗で、華奢な、色っぽいお半さんが「あんたがいなきゃ死ぬ」って言われたら・・ 女房はしっかりしてるから、残っても、また、どっかに行って幸せになってくださいと。(笑) 初役は恐いですね。長右衛門はやらないだろうと・・将来やろう、やりたいと思っているものだっ たら観て覚えてるのでしょうけど・・それに上方ものですし、あまり東京では・・初代も演りまし たし、松緑の叔父さんもなさってますが、覚えておりません。 イ: では、どなたに教わったんですか? 吉さま:ですから、鴈治郎のにいさんがなさっておりますのでね、鴈治郎のおにいさんに教えていただき ました。 イ: 歌舞伎のお芝居というのは教えられた通りなさるのですか?それとも何かご自分の考えも入れら れて? 吉さま:若い頃は教わった通りをやりますけれどもね。おかげさまで、この頃では年を取ってきましたの で、ある程度まで教わって「ここはどうしましょう?」と聞くと「お好きなように」とおっしゃっ てくださるので。自分の考えも入れてやっております。好きにやると怒られますけどね(笑) 実直で、両方に責任を感じて、あとは自分が消えるしかない。と思ってやりました。 イ: また、やってみたいお気持ちは? 吉さま:(笑いながら)うーん、道行きまでなら、やってみたいですね。・・ただ、ギックリにならない かと。型でおんぶして花道を引っ込む。というのがあるんですね。それで、二人の年齢差を強調 しよう。というものなんでしょうが、ちょっと、鴈治郎のにいさんではねぇ・・(笑) いや、だから、子役を使ってやったりしてたんぢゃないですかねぇ。わからないけれども。
ふぃ〜っ。。本日はこれぎり〜。 2000年 3月 5日 夜 其の弐へ 寝ても醒めても表紙へ