どうして?
11月 2日歌舞伎座夜の部
沢市 =吉さま お里 =芝翫丈 観世音=初お目見え。中村優太(福助丈のご子息)
綺麗な役、かっこいい役ばかりを望むのはいけない。どんなお役でも、役者として 挑戦し、いろいろなものを吸収・蓄積しなければ。それはわかってる。そうそう、白 塗りの綺麗な美しい役ばかりは望めまい。でもねっ!『顔見世』ですぞえ。そして、 座組だって豪華。なのに、なぜこの一役?これだけの顔ぶれで、この演目のみっての が辛い。 見事なハゲっぷりでした。道成寺の所化の青ハゲがちっと渋くなったような色合いの。 ・・まぁ、愚痴はいうまい。こーいうときもあるさね。あー、でもね、この顔ぶれだっ たらもっと濃厚なもっときらびやかな(吉さまが綺麗な役でないとしても)演目がある と思うの。顔見世=豪華な顔ぶれ=火花散る競演 これが観たかった。
幼い頃からのいいなづけ、いとこ同士の沢市とお里。夫婦になって3年。沢市さんは 疱瘡を患って盲目。兄妹のように育ち、親しさも愛しさもある夫婦だけど、毎晩女房の お里は決まった時間に家を空ける。「そりゃ、もー美しいと評判のおまえだもの他に好き な男ができても仕方ない。悋気せぬから言うてくれ」と沢市。「そりゃ聞こえませぬ沢市 さん」・・・沢市の目が治りますようにと観音さまに願をかけていたお里。そんな心を知 らず悋気の邪推をした自分が悪かったと、お里と一緒に観音さまへ。一晩お祈りしていよ うと「まずは家の用事をしておいで」とお里を帰す沢市。実は自分は足出まといだとお里 のいぬうちに一人滝壷へ身を投げる。戻ってきたお里もそれに気付き、追って身を投げる。 観世音さまの奇跡が起こり、川端で目が覚めると沢市の目は見えるようになっていたので した。で、夫婦仲良く寄り添い、手を取り、喜びいさんで歩み去っていきましたとさ。
夫婦愛ですな。前半の沢市のめそめそうじうじいじいじぶり、お里の本心を知ってか らの後悔、喜び、苦悩。これでもかザ・苦悩!測定値不可なほどの人間の絶望苦悩の表 現者としての吉さまは素晴らしい。のですが、これが又平や一條大蔵なら私は好き。俊 寛も私的に好きな演目ではないけど、苦悩の系譜でしょう。ただ、この話の内容で、こ こまでされるとちょっとしらけちゃう。周囲では「グスッグスッ」と泣きの気配も。私 は義民伝でも新助でも泣けなかった女。確かに新助さんよりは説得力がある。でも、こ のめそうじ系の男は気持ちはわかるけど、私は嫌い。足出まといだから死ぬ。って、あ ぁた、自殺なんかされたら一生忘れられないやんけ。ってそれを言ったらお芝居になら ないので、私がどうもこの系統の芝居が好きでない。ということなのだろう。
珍しいものが観られます。というか聴かれます。上手の部屋で三味線つまびき唄う沢市 観音さまへの道でも一節唄います。これが、常磐津なのか長唄なのか、ジャンルはわかり ませんが座頭って三味線抱えて、かどづけのような仕事もしていたのでしょうか?もちろ んこれがお上手で、上手の部屋の障子戸をお沢が開けたときちゃんとご本人がつまびいて いたように見えました。むろんのこと心得はおありでしょう。科白は絶品!ですけど唄を お聞きすることって初めてなのでこれは新鮮でしたね。『鬼平!アメリカを行く』の映像 で、カラオケでオンリーユーの一部は聞きましたけど。これは、また・・・(^^;
観音さまの奇跡で目が開いてから、何が起きたかわからず、まばたきもせず視線を一点 に定めている。その表情は素晴らしかった。目が見える!と実感できたときの喜びの表情 も。苦悩絶望からの歓喜。これは上手い。思わず、良かった〜!と拍手したい出来映え。 初めて顔を見る恋女房のお里に「これはお初にお目にかかります」と丁寧に挨拶したり、 「こんなに美しいお方が我が女房だなどと、とんでもない」とか可愛らしく笑わせてくれ ます。吃又の又平はもう土佐の苗字を許されて、喜びの場面になるまで、その絶望の哀し みが心身に迫り、観ていてとても緊張します。だからこそ喜びの場になると、一挙に肩の こわばりも解けるほどの安堵とカタルシスがやってきて、大好きな吉さま演目のひとつで すが、だったらハゲでなくても又平でいいじゃ〜んとかも思ったり。でも、こちらは夫婦 愛の物語。終わり方は後味良く、八幡祭のようなどーにもこーにもやりきれない想いで劇 場を後にする。ということはありません。
くどいようですが、私思うに沢市さんのようなお役もいいですよ。はい。ハゲが嫌なの は観客としての私のわがままですから。ただ、顔見世にこの一役だけではなぁ。という想 いはやっぱり拭い去れないのでした。立派なはげぶりですわ。小心な優しい、何より吉さ ま本人の持っていらっしゃるのであろう人の良さが沢市さんに体現されている。こんな人 が旦那さんだったら、落ち込んでないときはいいだろうなぁ。って。 あと、お里役の芝翫さんは正直、役によっては苦手な時があるのですが、気の小さいうじう じ系亭主の世話をチャキチャキこまめに焼くような女房はいいですね。好きです。 初お目見えの優太くん、最後の最後に白塗りの観音さまの美しい役で、出番は少ないけど 場をさらってました。ただ、まだ幼いからしょうがないのでしょうが科白が何を言ってる のかわからない。ま、壷坂終演はほぼ9時ですから、この時間まであの拵えで毎日舞台に 立つのだしまさしく“初お目見え”ということで祝福し可愛らしさに拍手を送ればよいの でしょう。将来に期待ですよね。
というわけで、私的には大満足とはいかないですけど、いいお話はいいお話だし、 これが自分にとっては今年の吉さま舞台の見納めなので、慈しんでまた拝見させて いただこうと思います。だたねぇ〜、ほんっとこれだけの顔ぶれが揃ってて、これ 一役ってのはいかにも惜しいですけどね。 あ、あとね、3階から見下ろしていたので、吉さまのうなじおよび背中の上の方の 部分がよっく見えましたです。「あ〜ら、うなじぃ♪」って見てました。 歌舞伎座着くまで、風邪でまだ微熱っぽかった私。なんだかんだ言って、生の吉さま 舞台拝見したら、治っちゃいました。はい。吉さま舞台に勝る薬なし。ってことですね。 あっはは! 寝ても醒めても表紙へ HOMEへ